赤本の「傾向と対策」は当たらない?なぜ?

大学入試の赤本に載っている「傾向と対策」が外れたと教え子が凹んでいたので、傾向と対策が的はずれなことを書いていた件について少し解説をしたいと思います。

結論からいうと、「過去の出題一覧」と「設問形式(点数配分及び論述か選択か)」以外は読む必要はありません。

「近現代史がよく出る」はホント?

教え子の言い分はこうです。明治大学政治経済学部の赤本に「近現代史がよく出る」とあったので、近現代史を中心に勉強して挑んだが、論述で国連が出た以外は出なかった、というものです。

うーん…そうですね…まず受験生にはつらいところですが、大学関係者になるとわかることもあります。

  1. 基本的にニッコマ以上になると、去年、一昨年など、赤本に載っているものは出ない。出たらラッキーレベル。
  2. 「●●がよく出る」は、赤本作成者の主観的な分析なので鵜呑みにしてはいけない。
    あくまで赤本の主観的な分析であって、問題出題者の意図とは異なる可能性が高い。
  3. 赤本での評価は問題作成者も目にしていることが多いため、赤本の評価とあえて違うものを出す可能性もある。
    →ある年の世界史の問題に関する赤本の評価について、作成した教授は「インドが重要だと思ってシルクロード出したら赤本に「良問だが高校生には難しすぎる」って評価された。そう言われたって重要なものは重要やろ!知るか!」と言っていました。

「社会経済史を勉強しておくのがよい」はホント?

明治大学商学部の傾向と対策に、社会経済史が出題されるので勉強しておくのが良いと書いてあったけれども、これも、結構主観的で表面的な分析だと私は思いました。

確かに2015年「重商主義」や「エネルギーの歴史」、2014年の「イギリス農業革命」は単元だけ見るとそれにあたりますが、本当に「社会経済史」というテーマで出しているのでしょうか?

2016年は「啓蒙専制主義」が出ていたり、2016年「ウィーン体制期のヨーロッパ」、2014年「ヴェルサイユ体制下のヨーロッパ」が出ていることから、社会経済史が出やすいのではなく、むしろ「人による支配のしくみ」というものに注目して出題しているのではないか?と推測できます。

この仮説に注目して2014~2016の過去問を分析すると、大問3・4・5は「人による(なんらかの)支配のしくみ」についての出題が多いことがわかりました。ウィーン体制(2016)、ヴェルサイユ体制(2014)、第一次対戦後つまりヴェルサイユ体制下のヨーロッパと比較したソ連やアメリカの様子(2015)、農業革命は産業革命につながる重要なしくみですし(2014)、中世~近世のヨーロッパでは●●同盟や●●主義が多く問われており(2016)、やはり「人による(なんらかの)支配のしくみ」を問う問題が多かったです。

「文化史が出やすい」はホント?

同じく明治大学商学部の大問1・2では、古代文明と文字(2014)、仏教キリスト教イスラム教の発展(2015)、中国の文化・思想(2016)、図書館史(2016)、エネルギーの歴史(2015)が出ていますが、これを文化史と言い切るのはやはり表面的と言わざるを得ません。

本物の文化史というのは、立教・青山・上智のようなキリスト系の大学の美術史や文化史を言うのです。

では、これらのテーマは確かに文化史ではありますが、中身を見てみると、現在ある文化の根っこにあるものや、現在あるシステムまでの発展の経緯を問う設問が多く含まれています。すなわち、文化史・思想史が出やすいのではなく、現在生きている我々が使っている何かはどんなふうにして成立・発展してきたのだろうか?というテーマ史が出やすいと推測できます。単発であの絵は誰とかそういうことを聞きたいのではありません。ですから、文化史が出やすいからといって、時代別にまとめて勉強していたらいつまでも点数がとれません。あくまでテーマで考えるべきです。

世界史・山勘 法政2017編

法政大学の文系の赤本では、2/7試験と2/8試験があり、2014から2016までの過去問が載っていました。傾向と対策を読まずに分析したところ、以下のことがわかりました。

  • ロシア史がなにかしら1問は毎年出ている
  • 2/7(2014)→2/8(2015)→2/7(2016)→…とロシアが日程を交互にして出ている

…今年は8日にロシアが出るのでは?

そして、出題された問題を分析すると、ソ連の成立や中世から近代のロシア帝国については既に3年間…赤本の範囲で出題されていたので、今年はもっと古い、初期ロシアの成立頃か、はたまた、ロシア末期・第一次世界大戦からソ連までの間の20世紀前半の細かい部分が狙われるのでは?と推測しました。

そして、受けた本人から聞いた言葉は「ロシアはロシアだけどバルカン同盟(1912年)がでた…」。ロシアは出たのです。しかも大体絞った範囲で。ただ、難しい内容であったことは仕方なかったです。

赤本の主観的な「傾向と対策」に頼らず、推測する力を養う

ポイントをまとめておきます。

  • 大学の先生も赤本の評価を読んでいて、赤本に書かれたから今度はこうしてやる!と思って作る可能性があるということ
  • 主観的な「●●が出る」に釣られないこと
  • 大学の雰囲気と実際の問題から、どんな問題を出しやすいのかを推測すること
  • 出題者が大学入試で求める「教養」「常識」は何か?を考えること
    →たとえば商学部や経済学部などの社会系学部なら、歴史上人間がどのように国や地域を動かしてきたのかという社会の仕組みを最低限知って入学してほしいと思っているはずである。
  • その大学やその学部の出身者に大学の気風や教授たちの性格を聞いておくこと
    →キリスト教系のルーツの学校では英語が難しくなりやすい
    →明治や法政、中央など法学系ルーツの学校ではキリスト教系に比べて英語が易しい
    →学習院は伝統的に国語が強いので現代文が難しい傾向がある

などなどです。

学校のテストと模試、大学入試の出題はわけて考える

大きく目的が違うからです。

  • 学校のテスト・模試→高校生としての実力がどの程度かをはかるもの
  • 大学入試→その大学に入れるのにふさわしい教養を身に着けているか調べるもの

ですから、大学入試では高校生の範囲を超えたことがゆうに出てきます。
そこでキレるのでも混乱するのでもなく、まずやるべきことは、大学の学部のホームページを眺めることです。
学部のホームページにある教育理念や、教授たちの自己紹介、大学で行っている授業の例を読みましょう。
そして気になる授業があればレジュメを検索して、使用している教材を確認したり、授業の用語を確認しましょう。

そうです。大学に入ったらこういうことを勉強するのか、じゃあどういうヤツをとりたいとおもっているのだろうか?と逆から考えてみてください。入ってからついていける学生であるためにはどんなものが必要なのか?です。

カレーをつくりたいなら、材料を買いますよね。スーパーで適当に材料を買ってきて、なんとかありあわせでカレーを作ったということもあるでしょう。でも、カレーが作りたいならカレー用の材料を買いますよね。その大学その学部に入りたいなら、そこにいる中の人を分析することです。問題を表面的にみているだけの赤本の評価を鵜呑みにするのではなく、中の人の雰囲気を知るのです。中の人が問題を作っているのですし、入ったらその人達に習うのですから。

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Sym
ベテラン塾講師です。
中学受験・大学受験・大学院受験は自分が一般入試で経験。

なぜ先生をしているかというと、その人個人に合った方法を探して「できた!」と喜ぶ姿を見るのが好きだからです。

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